砂場

 文字を書く暇があれば絵を描けという内なる声が聞こえてくるが、これも必要な事だと思って書いている。口下手なのを矯正しようという試み。

 泥団子も磨けばピカピカになる。ここはそのための砂場。

 

 4月、フリーランスになった。高校卒業後からお世話になっていたスタジオを離れようと思った理由をカッコつけて言うと、もっと外の世界を知りたくなったから。真面目な理由は下記に紛れている。

 スタジオに入ったアニメーターが通りがちな研修→動画→動検&二原→原画の道を目標時期よりも早く辿り、これは社内の人手が足りていなかったからやらざるを得なかっただけでもあるが、自分の芝居を描ける喜びは確かにあった。同時に、このままで良い作品が作れるのかと理想の映像を考え続けていた。

 研修も終えて仕事に入った頃、学生時代特に刺激と影響を受けた某氏に思い切ってDMで相談した事がある。「私がやりたい事とこのスタジオでできる事はズレていると思う。あなたの考え方を知りたい」みたいな内容を送った。自分が影響を受けたご本人に聞く事が1番解決に近いだろうと思ったのだ。こんな不躾なやつに某氏は丁寧に答えてくださり「アニメに囚われてはいけない。映像そのものに興味を持つべき」と、続けて何通かのやり取りをして終えた。

 アニメに囚われてはいけないと言われた事に、正直当時は困惑した。仕事に活かせるように学生時代は積極的にいろんな経験をし、映像作品を見てはスタッフの名前と感想をノートにまとめていた。ポンポさんのジーンくんみたいな事を素でやっていたのである。先輩に「doroのレイアウトは不思議な面白さがある」と言われた事がある。これは確実に知識が活きている実感があった。読書も音楽も好きで趣味もたくさんある。これのどこが囚われているのだろう、と頭を抱えて気づく。それらを全てアニメに活かそうとしていた事がまさに指摘された問題だった。

 様々な作品を経て、意味のわからなかった言葉の解像度が上がっていくのを感じた。アニメーションは映像表現の一つに過ぎない。映像はもっと幅広いもので、アニメーターという一つのポジションにとどまらず、もっと他のやり方を模索したい。

 今でも覚えている。絵を描く事はずっと好きだったが、漫画を描いてもイラストを描いてもしっくりこなくて、ある日好きなアニメの好きなカットを1コマ1コマ模写してパラパラしたら絵が動いたあの瞬間。小学生の頃の私はこれだと確信し、そこからまっすぐアニメーターになった。目指していた職に就いた事でさらに次の課題が見えた時、あの瞬間と同じ感覚があった。

 私は映像を作りたい。そのためにはもっと手数を増やさなきゃいけない。そこから仕事と並行してXR関係の勉強を始めた。

 社内と社外の仕事に加え勉強と実質3つの並行作業がだんだん厳しくなり、何か言われた訳ではないが、自分で酷いと思うレイアウトを時間切れでそのまま出してしまい反省した。自業自得。

 社外の仕事を取る事は特に制限されておらず、社外の同期の手伝いをしたり、個人宛にいただく仕事を請ける事も増えてきて、いよいよスタジオを離れる選択肢が浮かぶ。育てていただいたご恩はあるが、別で進めたい事がある以上このままいると返って迷惑をかけてしまうと思った。せっかく育てたスタッフが原画に上がった途端フリーになるとはよく聞くが、期せずして自分も該当者となった。

 社内の人たちと何度か話し合い、最終的に社内の某作品に恩返しとして尽力してから離れる事で話が付いた。自分勝手で恩知らずなやつだと文句を言われる覚悟でいたが、先輩には「doroは優秀で可愛い後輩だから正直寂しいけど、doroらしくて良いと思う」と言ってもらえた。褒められた事を自分で書くのは恥ずかしい気持ちもあるが、迷惑をかけてばかりだった先輩から思いがけない言葉をもらえた事が嬉しかった。

 改めてスタジオの皆様、お世話になりました。

 

 どれだけ言葉を尽くしても誤解や曲解をされる時はされる。人間関係のめんどくさい問題の大抵は両者の認識の齟齬から生まれるものだと思う。アニメ業界はたびたびSNSでのネガティブな意見が散見されるが、解決するには原因を突き止め対処するしかないというのが自分の考えで、よろしくない方向に行きそうな時は第三者ではなく本人とやり取りしたり、システム的な問題であれば改善策を探す。大きく変わる事は難しいが、せめて自分の周りだけでも良い環境を構築する努力はできる。

 よく作業通話をしたり、一人旅で現地の人と話したり、海外の観光客と一緒に遊んだり、他人との関わりを楽しんでいる。会話も情報。コミュ力があるというよりただ狂っている。こんなやつに変に影響を受ける人がおったらあかんと意図的に表での自分語りを避けてきた。人間に対する好き嫌いが無く、どちらかと言えばラブアンドピースの精神で好意的でいるが、相手にどう思われようが自分は自分。これはわたしだからこのスタンスなのであって、どうしても周りを気にしてしまう人がいる事も知っている。しかしコミュニケーションを取らないと始めようがない事も事実。他人の考えてる事なんて分からないし変化していくものなんだから関わる以上は相手の気持ちを引き出し、自分の事も伝える必要がある。それだけ。

 インターネットでの活動の一環としてのはてなブログ。なんもわからんけどとりあえず背景色を砂っぽい色にした。泥団子の仕上げにはさら砂が必要である。

 

 散々コミュニケーションについて述べたが、創作での非言語コミュニケーションが1番好きだ。言うまでもなく社会と創作で必要なコミュニケーションは別物。

 言葉にすればストレートに伝わるものをわざわざ言葉以外の方法で表現されたものこそ本質かもしれない。わたしにとってのエンタメは気楽だと思う。手抜きはただの楽。わたしがしたいのは気楽。関わる人たちの精神的な負担の軽減。前に椎名林檎さんがラジオで「世の中を気楽にする勢力に加勢したい」と言っていて、なんとなくわかる気がした。

 クラブが好きだ。3時12分の歌詞の「同じ曲が好きってそれだけで肩を組んでさ」が良いなとしみじみ思う。ageHaでイノタクさんが3時12分をかけた時に、隣の知らん人と音を浴びながら意思疎通したように肩を組んで踊っていた。いい感じの曲がかかって、みんなで楽しくなって踊ってる不思議な場所。

 そんな感じで、好きな音楽を知れば下手な自己紹介をするよりも確実に分かりやすいだろうとわたしが普段聴いている曲を随時更新しているプレイリストです。

music.apple.com

 フリーランスになった経緯を聞かれてもないのに長々と書いておいて果たして何も成せないダサいやつになるのか、何か成すのか。頑張ります。
 何かあればお気軽にご連絡ください。スマホだけ持ってほぼ手ぶらで旅に出るくらいにはフッ軽です。

doro

mudpiedoro@gmail.com

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